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南條刃物店は、回向院裏の路地を入ったところにあります。玻璃戸(ガラス戸)を入った店内は三四人程しか入れない広さですが、左手には売り物の刃物、右手奥には砥ぎ場があります。
「ドイツのロマンチック街道が好きなんです」と言う、ジーパンの良く似合う五代目の南條博さん。夫婦で旅行を楽しむことが趣味です。
かつて、この地区はメリヤス産業が盛んでした。当時は布地を切るための刃物の注文が多かったのですが、今では日本橋の老舗店や、学校からの刃物砥ぎ依頼がほとんどだそうです。なんと、上野の博物館にはご主人の研いだカンナが飾ってあるそうです。
現代は、物を簡単に捨てる時代かもしれませんが、物を大事にする「もったいない」という精神をこの街に取り戻してくれる、頼りになる刃物屋さんなのです。
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「キィーン」という音の中で刃を研ぐ時のご主人の様子は、しゃべっている時のやわらかく朗らかな物腰とは打って変わって、真剣そのもの。一八三一年(天保二年)創業の南條刃物店は、遠くに引っ越したお客さまでもわざわざ研ぎを依頼するほどの、ファンの多い刃物店です。
刃物は「衣食住の全て」にわたって欠かすことのできないものなのだそうですが、廃業されるお店が多く、その分注文が集中してしまうのだとか。
しかし、人気の秘密はそれだけではありません。ご主人の人柄が温かく、地元や取引先に愛される「人情の人」なのです。地元消防団では、功労賞も受賞されています。
「金物屋さんに『バリ(※)』と言われると悲しい。『刃返り』と言って欲しい」と、言葉一つにもこだわるご主人。そんな一流の研ぎ師に研いでもらえば、料理を作ることがさらに楽しくなるかもしれませんね。
※バリ 刀を研ぐ時などに出る、金属のはみ出た余計な部分。
update:2009.3.31
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